【LIVE REPORT】2025.05.06 『Live at SHINAGAWA Church』at キリスト品川教会 グローリア・チャペル
2025 ADDICT OF THE TRIP MINDS
2025.5.6 mon.
キリスト品川教会 グローリア・チャペル
Text.K子。

「俺キリスト教じゃないけど、大丈夫かってことだけまず確認して、って」
ラジオの中で健一さんがそう言って笑った。この日ゲスト出演するバイオリニスト・牧山純子さんがパーソナリティを務める番組内での、会場が品川教会に決まった経緯について話している時のひとコマだ。カフェやワークショップなど利用のされ方も多様になり、誰もが信仰関係無くクリスマスにプレゼントを交換するように、“会場”として捉える人が多い中でその反応の純粋さに少し驚いた。ハコとしてのデザインや特性ではなく、まず本質を当たり前に考えた人間は、ここで一体どんなライヴを行うのだろう。当日の朝、健一さんのInstagramストーリーズに上がった文字は「TODAY's LIVE No mc No encore」だった。
GW最終日のこの日は朝から雨。品川という地にありながら、都会に囲まれたオアシスのように佇む教会の礼拝堂内は、大きく吹き抜けた空間と、前回の神戸・月世界の反動か奥行がとても広く感じる祭壇という名のステージ、そして正面にはぬくもり感じる木製の十字架。大きな窓の外で静かにつぶやく雨音が中の空気を一層凛とさせ、場内にはSEの鐘が厳かに鳴り響いている。チャーチベンチに座り、空間を感じながらその時を待つ客席の様子は、さながらミサで祈りを捧げる時のような神聖な面持ちだ。
定刻を少し過ぎた頃、ひとり姿を現し、キリスト教のシンボルを見上げながらおもむろにギターを紡ぎ始める健一さん。歌い始めてようやくそれが「あの娘は言う」だと気付く。アコースティックでもなくエレキギター一本での弾き語りという、何とも斬新なスタートである。ひとり十字架を背負い、真っすぐに正面を見据えるまなざし。いっぱいに広がる歌声と色を添えるギター、その二つの音だけが静寂に響きわたる。


やがてギターを残して声が止むと、スタンバイしていた純子さんが定位置に。迎え入れる健一さんに、柔らかい音色で呼応する。声、ギター、バイオリンの三種が奏でる「旋律」は、時に優しく溶け込み、時に情熱的に絡み合う。まるで白昼の逢瀬を目撃しているかのよう。

拍手が沸き起こり、退場してゆく純子さんと入れ替わって、志門さん・Motomさん・シゲさんが入場。なんと、全員の衣装が黒で統一している。そんなADDICTメンバー4人が揃っての一曲目は「誰もが気付かない日の午後」。迷いに揺れるギター、不安が立ち込めるベース、音に宿る心情が迫りくる最悪の決意を確信させた時、コンクリートの壁に下から照らされた十字架が神々しく浮かび上がった。これは…何とも言えない、胸を締め付ける懺悔のような瞬間。背景がゆらゆらと揺れて、過去の日々を回想しながら迎える最期の煌めきみたい。でも、曲が終わろうとした時、ふっと浄化されたような感覚に包まれたのです。《夢の中で見た場所》はきっと“今この場所”で、今日だけは自死という《切なすぎる結末》にはならなかったんじゃないか、と。NIGHT公演では、この曲に代わって「孤独に自由に」が演奏された。低く這うベースの音がエコーがかかったかのように反響し、振り下ろすスティックがドラムヘッドに叩きつけられる音の生々しさ。健一さんは頭を振りながら、シゲさんや志門さんの前でギターをかき鳴らし、《感じ合いながら 抱きしめてく》とクロスした両腕で肩を抱く。

そして残響が消えたまさにその瞬間、高らかに響きわたったのは「ぬくもり求め」のあのギター。椅子から振動が伝わり、広々としたステージを動き回る健一さんに負けないほど、シゲさんの手が激しく動く。静から動へ、魂の叫びが溢れ出し《絡み合う指先が》と何度も指をマイクスタンドに這わせ、艶めかしく顔を寄せる。目も耳も奪われたままここから逸らせない。残り香のような残像を胸に残し、「特別な人」の悩ましげなベースラインに誘われる。個人的には、教会でいちばん聴きたいと思っていたのがこの曲。《世界が終わると言うならば 跪き祈り続ける 神様この手を導いて》という詞が、ここ以上に合う場所はないからだ。それを歌い、演奏する時の想いもまた想像せずにはいられない。


この日昼夜で入れ替わったのは二曲、そんな神聖さと引き換えにNIGHT公演で披露されたのは「今はなき世の中」。前曲の激しさから一転、軽やかに爪弾くギターにループする鼓動が、混沌と輝きが入り混じるバックの映像に彩られて宙を泳ぐ。一瞬、健一さんが志門さんの方を見て笑っているように見えた。その様子に、ステージの上も客席と同じリアルだったと思い出す。
だんだんと差し込む光が傾きかける頃、中央のピンスポットでしっとりと始まった「偽り感じて」のサビ前で、本日もうひとりのゲスト・スロベニア出身のシュペラさんが登場。これまで幾度となくゲストを招いてきたADDICTだが、今回初めての試みとなったのは彼女がボーカリストだということ。ADDICTの歌詞を女性の声が奏でているという不思議な感覚は、もしかしたら聴く側よりも演奏する側の方が感じることなのかもしれない。寄り添う二つの声。目を閉じると二人のハーモニーが、やさしい夢へ導いてくれる安らぎに満ちた腕の中のようだった。


そんな夢の中で、一本のギターの音色が見せる、赤く染まる夕焼けにも似た美しさと淋しさ・もの悲しさが浮かぶ情景。この気持ちは何?通路向かい側の席の女性が、そっと胸に手を当てるのが目に入った。「何も知らない」の根底にある感情が沁み入る絶妙なアレンジではないだろうか。静かに熱く滾る祈りが高ぶって、壊れてしまう…声だけでなくそんな感情を掛け合いする二人。揃って伸ばした手で悲しみを呼び、《だけどそこにあなたはいない いないから》と崩れそうな歌声でつぶやくシュペラさんの隣で、祈るように両手を掲げる健一さんの姿も印象的な終わり方だ。



8分にもわたる曲の後、この日のクライマックスが待っていた。聴き慣れないギターリフで始まったのは、悲しみの先に行き着いた怒りが露わに表現される「幸せな日々」。《手のひらが赤く染まり 血が流れ落ちる》という言葉を合図に、天井を伝って真っ赤な血が流れ出し身体を赤く染めてゆく。まるで戦場で戦う兵士のすべての痛みを浴びているかのよう。裸足で服をひるがえし踊るシュペラさんが、健一さんと向かい合い怒りをぶつけ合ってバトルを交わす。膝を合わせ頭を振り合うその気迫と流れ続ける血に、ただもう茫然と心臓を握りつぶされるしかない。最後の掛け声で二層の声が天に轟き、照明が落ちた暗闇の中で笑顔で抱き合う二人に、自然と大きな拍手が沸き起こる。すべてが強烈なインパクトを残した圧巻の演奏だった。



そして、シュペラさんと交代で再び純子さんがステージへ。志門さんのギターの上に重なるバイオリンの音色が何とも叙情的な「一人にしないで」。歌を追いかけて弓を弾くその姿もまた絵になる美しさだ。途中、ピチカートという指で弾く奏法では、バイオリンの弦ならではの張りつめた太さ・硬さが紡ぎ出す、この曲の持つ心の脆さみたいなものが伝わってくる。そんな純子さんの足元に座り込み、《離れないで欲しい、連れ戻して欲しい》と懇願するように、今度はバイオリンに合わせて健一さんが上半身を委ね頭を振る。そして最後は正面に向けて祈りを…。間髪いれずシゲさんがベースを弾き、その流れのまま「推察の最中で」が始まると、何とも軽やかなバイオリンに合わせて健一さんもステップ。合いの手を入れるようなフレーズもおもしろく、これまでのこの曲のイメージを一変させる。そして、見せ場となったのは純子さん×志門さんの弦楽器バトル!先ほどの健一さん×シュペラさんにも負けないほど実にスリリングな光景だ。激しく白熱する純子さんに対し、志門さんはとても楽しそう。NIGHT公演ではここで、二人の間でリズムを取りながら未届けていた健一さんが、客席へ降りてセンター通路からその様子を眺めるという場面も。この時、かすかに甘い香りが漂ってきたことに気づいた人はいただろうか。



再度メンバーのみとなったステージ上から、とても清らかなギターが空間に響きわたる。今回、歌い始めるまで何の曲かわからないというものも多かったが、そのアレンジの要はやっぱりギターだなと。どれも見事に美しく、この場所にふさわしい。やがて「幻影」のあのベースが心臓にダイレクトに振動を伝え、生でしか感じることのできないこの低く深く熱い震え。そこにMotomさんのダンダンダン!という叩き込みが加わると、厳かな雰囲気のせいか微動だにしていなかった(笑)客席の頭が小刻みに揺れる。その勢いのままに「無題」でラストスパート!解き放たれたようにギターが会場の中を泳ぎ、この日音量制限のためボリュームを押さえていたMotomさんのドラムが、最後だからと言わんばかりに(笑)今日イチの音が炸裂する。客席を見渡す志門さんの表情には、手応えと充実感が滲み出ていた。




そしていよいよラストの一曲は、純子さん・シュペラさんと共に、品川教会ライヴを作り上げてきたオールメンバーで。暖かいベースの音色が広がって、それに反応するように映像が波打ち揺らめく。それは背景だけではない、パイプオルガンも客席のたくさんの背中も、すべてがゆらゆらと水の中にいるみたい。パッヘルベルのカノンを思わすメロディや、遠い夏の日に聞いたひぐらしの鳴き声のようなバイオリン、空から舞い降りる美しいシュペラさんの歌声、何もかもがこの曲の世界観を最大限に輝かせている。客席にはあちらこちらに優しい笑みが浮かび、《その中へ…》と繰り返す壮大なエンディングでは、天使がたくさん降りて来て、高く高く皆を連れてゆく…そんな情景が見えたような気がした。


「ありがとうございます」本日初めてここで、健一さんが歌詞以外の言葉を口にし、メンバーとゲストの紹介が行われると、大きな大きな拍手や歓声とともにスタンディングオベーションが!!誰一人躊躇することなく立ち上がって喝采するその光景は、何とも言えず感動的で、メンバーも観客もここにいたすべての人が、忘れることのできない特別な時間になったに違いない。


今回一貫して思ったのは、総合的演出の秀逸さ。演奏やオイルアートはもちろんだが、教会をリスペクトしたアレンジ、漆黒でそろえた衣装、ほぼ途切れることなく何かしらの音で繋がれていた曲間、メンバーやゲストのステージの登場の仕方、そしてNo mc, No encore。そのすべてが、演劇を観ているようだったということ。そこに自然光差し込む昼と、厳かさが際立つ夜、という自然の演出が加わり、いくつかの場面転換が行われる。たった一つのmcも、そこには必要なかった、いや有っては成り立たない最後のスタンディングオベーションだったのではないだろうか。そして、客席もしっかりそれを感じ受け取っていた、ということではないのだろうか。品川教会でのライヴは、ADDICT史に残る素晴らしいものとなった。常に最高を更新し、新しい世界へtripさせくれるADDICTの次回ライヴに乞うご期待!

◆Photographer : Keisuke Nagoshi

K子。/音楽ライター/ X
神奈川・湘南育ち。音楽と旅行と食べ歩きが大好物な、旅するライター。愛情込めまくりのレビューやライヴレポを得意とし、ライヴシチュエーション(ライヴハウス、ホール、アリーナクラス、野外、フェス、海外)による魅え方の違いにやけに興味を示す、体感型邦楽ロック好き。

