【LIVE REPORT】 2023.04.13 渋谷 PLEASURE PLEASURE/ Live -Spring-

Live 2023 -Spring-

2023.4.13 thu.
SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
Text.K 子。

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ライヴ直前のインタビューで、2公演目があるからといって余力を残してライヴをする、ということはミュージシャンとしてなかなか難しい、と語っていたシゲと志門。
昨年の3月と9月にCLUB CITTA’で行われた際も1日2公演というスケジュールで開催され、あの熱量のライヴを立て続けになんて大丈夫なのか?というこちら側の心配をよそに、白昼夢の中で漂い、ラウドに解放された夜を魅せつけてくれた。今回は昼夜で特にコンセプトというものは謳っていないが、常に全力で演奏することの楽しさを見せてくれる彼らのステージには、それはあってもなくても見終わった後残る感覚にそう変わりはないのではないだろうか。どちらでもいえるのは、ワクワクと音の洪水に溺れる心地良さ。

この日の会場となったのは、渋谷のど真ん中のビルに入っている2009年まで映画館だった場所。そのため、ドリンクホルダの付いたクッションのよい座席やどことなくエレガントさを感じる雰囲気は、さながらライヴハウスサイズのホールといったところだろうか。通常のホールよりステージが低いところもこの会場ならではの良さである。
そしてステージセットには、何も手を加えない会場むき出しなままを採用。結成当初『CLUB ADDICT』を行っていた寺田倉庫を思わせるその無骨さが、彼らにはうってつけだったという。

昼の部・開演30分前、告知はなかったがMotmがDr.セットに座りPCでのDJプレイ。それを聴きながらの贅沢な客入れとなったが、意外と気付いていない人もいる様子がもったいなくて、思わず大声でアナウンスしたくなってしまう。油断も隙もあったものではないのがAOTMだ。

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メンバーがステージ上に揃い、本日の“Spring”と題したオープニングに相応しく、明るいメジャーコードでのセッションで始まり、だんだんと壮大さを増していったところで「この場所から」へ。その後の「旋律」への繋ぎもそうだが、自然に流れるようにであったり、余韻からの絶妙な間だったり、次の一音への繋がれ方にもこのバンドのワンステージに対する構成の美学のようなものを感じる。配信でのバラ売りが主流となった現代ではあるが、CDの曲順や曲間でその曲のもつ魅力は最小にも最大にもなると個人的には思っている。ライヴもまたしかり、いかに前後の曲を最大限に生かすか。彼らのそれは計算されているようで自然とそうなった、持ち合わせているセンスのようなものだろうか。

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静と動が同居する「ぬくもり求め」では、健一がギターを置いて感情の起伏を露に動き回り歌う姿に、胸に迫るものを感じずにいられなかったのは私だけではないはず。《悲しみが溢れてきていつまでも夢見てる》と、その混沌とした胸の内を視覚的に表現していたのが、背後に映し出される水と油によるアートだ。AOTMではわりとお馴染みになっていると思うが、当日2公演ともに参加した人は気付いただろうか、昼と夜でこの曲の背景に違いがあったことを。上記でも触れたが、今回はバックにスクリーンなどは無く、会場に元々設置されているものがそのままセットとなっていたことや、壁の色が黒だったこともあり、昼の部での様子を踏まえてより映える色などが夜の部では使用されている。そう、つまりあれは事前に準備された映像ではなく、あの場で実際に作り出されているものが映っているのだ。ほとんどの観客が気付いていないことだと思うが、それを知って観るとまた違った楽しみ方感じ方ができると思うので、ぜひ次回は意識してみてほしい。

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そして今回もうひとつ、「推察の最中で」や夜の部の「孤独に自由に」「幻影」などで新たに導入されていたのがダブルヴィジョン。わかりやすく言ってしまえば、バックに大きな健一がもうひとり映っているというもの。リハーサル中に映像・照明スタッフからの提案で試してみたところ、これはいけるのでは?と本番で実践、見事に迫力のある世界感を演出。こういった予定調和に留まらないところも、AOTM が進化を続ける理由のひとつであり、バンドと周りのスタッフ関係者が共にその価値観を共有できている点でもあるのだろう。

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7曲を終えたところで5分間の休憩&換気タイム。先に外へ向かおうとしない客席を見て「行かないんだ?」「健ちゃんが行ったら行く!」なんて和やかなやりとりも。一緒に歌ったり掛け声があるような曲はないものの、マスクをした状態での声出しが解禁になって初めてのライヴは、どちら側にとってもやはり嬉しいものに違いない。
休憩明けは、ゆらゆら揺れたくなるような志門のギターからの流れで「今はなき世の中」から再開。「何も知らない」では、健一がステージを降りて「No more war!」と熱く叫び、間奏部分ではこう語る。
「今日ウワサによるとミサイルが飛んできたらしいけど、何で日本に着弾しなかったと思う?」
「日本人が持っている“戦争はしないという気持ち”が伝わったんだと思います」
この言葉を聞いて、世界中の人がひとり残らず彼のような考え方ができたなら、どんなに美しい世界になるだろう、と悲しさと眩しさで少し切なくなった。ちなみに、曲後半メロディラインを違う音程で崩して歌っていたのが印象的で、終演後尋ねてみたところ本人は「全然覚えてない」と笑っていた。

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本編ラストは「無題」。Motmの、パワーがありながらもタイトで輪郭のはっきりとしたドラムとともに、歌詞に合わせて《わかっているだろ》と客席へスティックを向けたところも見逃さない。
ご丁寧に「アンコールはないよ」と去り際に残し、実際用意していたセットリストもこれで終わりだったが、止まない声に応えて「あの娘は言う」を演奏、昼の部は終演した。

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約1時間半のインターバル後、艶やかなシゲのベースソロから夜の部がスタート。「私と自分」で軽やかなステップを見せる健一と、いつになく“動”の志門。
いつもAOTMの世界感とマッチした、妖しくそして美しいライティングが彼らの音に彩りを与えているが、それをいちばん感じるのは「今、再び」中盤の目もくらむほどの眩い白い世界ではないだろうか。曲終わり、フライングVのギターを抱きしめる姿は、ただただ美しい。

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そして、本来セトリにはなかったがシゲの希望で急遽追加となった、30年程前に作ったという「誰もが気付かない日の午後」。平和な日本に於いてなぜ若い人の自殺が多いのか、ちょっとした繋がりや声がけで何とか食い止めたい。20代前半でそんなことを考えていたということに少しびっくりするが、50代になった今も変わらぬ想いで歌っていることのブレなさと同時に、その必要性ある変わらぬ30年後の状況にやるせなさを感じずにはいられない。

今回、昼夜の2公演で共に演奏されている曲が6曲あるのだが、その中でVer.違いのものが「幸せな日々」と「偽り感じて」の2曲。「幸せな日々」の昼の部では、カンカンカン...とけたたましく響くシーケンス音から始まり、まるで警報が鳴り響くかのような緊張感さえ感じるアレンジに、膝を付き天を仰ぐような健一の姿も。夜の部はノーマルver.。「偽り感じて」に関しては、しっかりバンド演奏と、ギターと歌で聴かせるアコースティックで披露。個人的には夜の部のセトリのど真ん中に、このしっとりしたver.をもってきたとこにグッときた。シンプルがゆえにより言葉が入ってきて、何かが浄化されるようなそんな気さえしてしまう。

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そして、この日の最初と最後を飾ったのが「この場所から」。世界の中で歯車が壊れかけているこの時に、この場所から、心の奥深く眠る夢を呼び起こそう。そんな、言葉にならない祈りが聴こえた気がした。AOTMは敷居が高いんじゃないかなんて声も時々目にするが、目だけでも耳だけでもなく、まずはその全身で感じてみてほしい。きっとそこから、夢の世界は始まるのかもしれない。

Photographer:Keisuke Nagoshi

SET LIST 昼の部
        
1. この場所から
2. 旋律
3. 一人にしないで
4. ぬくもり求め
5. 推察の最中で
6. 特別な人
7. 誰もが気付かない日の午後
8. 今はなき世の中
9. 幸せな日々
10. 何も知らない
11. 偽り感じて(BAND ver.)
12. 無題
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Enc. あの娘は言う


SET LIST 夜の部

1. 私と自分
2. あの娘は言う
3. 心の中の銃
4. 孤独に自由に
5. ぬくもり求め
6. 偽り感じて(シンプルver.)
7. 今、再び
8. 幻影
9. 特別な人
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Enc.1 幸せな日々
Enc.2 誰もが気付かない日の午後
Enc.3 この場所から

K子。/音楽ライター
神奈川・湘南育ち。音楽と旅行と食べ歩きが大好物な、旅するライター。愛情込めまくりのレビューやライヴレポを得意とし、ライヴシチュエーション(ライヴハウス、ホール、アリーナクラス、野外、フェス、海外)による魅え方の違いにやけに興味を示す、体感型邦楽ロック好き。

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