【LIVE REPORT】 『2024 ADDICT OF THE TRIP MINDS Live -summer-【NIGHT】編』代官山UNIT◆2024.7.7
ADDICT OF THE TRIP MINDS Live -summer-【DAY】編
2024.7.7 sun.
代官山UNIT
Text.K子。
ステージ上にADDICTのロゴが浮かび上がる中、19:10メンバーが登場。聴こえてきたのはあの耳に残るドラムの音…【DAY】同様New ver.の「幻影」。と思いきや、ギターのアプローチが違う!もはやNew ver.のアレンジver.ということなのか!? 一体どこまで進化するんだこのバンドは…思わず感嘆のため息が出てしまう。
闇の中で背面の幕が開き、そのアートがメンバーの顔や体にも投影され、歪むギターで健一さんが観客を煽る。「幻影」からの流れに加えて「旋律」の高揚感にさらに拍車をかけてゆく。【DAY】の冒頭2曲がアコースティックだったこととは対照的に、【NIGHT】は最初から飛ばしていくようだ。
続く「心の中の銃」もまた、昨年末以来の演奏となる疾走感あるCD ver.で、それぞれの指や腕さばきが激しく加速し、昇りつめた最後の「殺される!」で浴びたピンスポットに、撃ち抜かれたかのような喜びの歓声が響く。
「ようこそ、ADDICT OF THE TRIP MINDS サマーライヴへ!」と、メンバー紹介で盛り上がった後に、爽やかな笑顔で手を振りながら登場したRioくん。本日二度目ということもあってか、大阪で初めて共演した時に比べだいぶリラックスした様子が伺える。早くも恒例となった「推察の最中で」の志門さん×Rioくんのギターバトルで、間に挟まれてそれぞれの音を浴び、まるで喧嘩を制止するかのように近寄る二人の間を割いて歌い出す健一さん。徐々に白熱してゆく音での会話は、マイクスタンド伝いに崩れ落ちてフィニッシュ!
ここで、次の曲を紹介するに当たり背景にあるウクライナの話に。今や画面の中でもあまり見かけなくなった現状は、今でも、いや今の方がなお、悲しい状況下にあるという。それは、目で見えているものだけが現実、無意識にそんな感覚で幸せな日々に埋もれがちな私たちにとって、ハッとする事実だったのではないだろうか。それぞれの先で避難して生き延びた人たちのことを想って作ったという「ぬくもり求め」。重苦しく響くベース、とめどない感情が止まらない止められない…力強く絡めたその指の先には、きっと見えない場所で今も震えるその手が見えていたに違いない。そして、たっぷりと間奏で聴かせる「特別な人」New ver.を経ての「あの娘は言う」。高らかに唸るギターソロからのスリリングなリフ、そこにドン!ドン!と迫りくるドラムが重なりシャウト!これだけでもこの曲のカッコよさは全開なのに、髪をかき上げながらの「ヘイ!そこのあんた」はもう反則である。
「7曲くらいやりました、なのでちょっと休ませてください」としばしの休憩タイムをはさんだ後、お香派かキャンドル派かという話題に(笑)。なぜに今キャンドル?と思ったが、そういえば以前グッズにあったことを思い出した。「1日5分でもいいから何も考えない時間を持つのもいい」なるほど…そういう意味ではどちらも癒しのアイテムと言えるかもしれない。前回の大阪から発売を開始したお香ブランド“tiyu”との、笑いたっぷりのコラボ試作秘話で和んだ後は「後半楽しみましょう!」と「今はなき世の中」へ。ズンズンとお腹の底に響くシゲさんのベースと、眩いばかりのミラーボール、楽しげにリズムをとる健一さん。そこから一転、【DAY】パートでは冒頭しか聴くことのできなかった「誰もが気付かない日の午後」を、今度はしっかりフルで演奏。静かに熱いベースライン、悩ましい旋律、顔を歪めて「どこかの家族が唾を吐く」とつぶやく。二人のギターが悲しげに熱を帯び、絶望の真っただ中の心境を表しているかのよう。30年以上前に作ったということは、20代前半?その年齢でなぜ、自ら命を終える若者のその想いを詞に留めようと思ったのか。その心境とともに、途中で歌うのを止めてしまったその「気分じゃない」気分、というのも気になったが、少なくとも自分が当事者にはならない、そして近親者も当事者にはさせない、まずはそこからではないだろうか。未来は楽しいことばかりではないかもしれないが、きっと辛いことばかりでもないはずだ。
そんなこれからを担う若者Rioくんが、再度ステージに合流したのは「一人にしないで」。志門さんの前で向い合い音を交わす、17歳の堂々たる姿が眩しい。演奏後、「今、東京にとって一番大事なものは何か」という無茶ぶりとも言えるような問いに、Rioくんはこう答えた。
「皆が幸せということを理解して、戦争とかも無くその幸せの中に生きているから、今楽しめる間を全力で楽しんで人生を送ってほしい。お母さんがウクライナ人で、僕もウクライナの血が入っていて、家族とかもいろいろ大変なので、やっぱりこうやって笑って音楽ができて、皆と喋って遊んだりできる日々を後悔しないように、今できるだけのことを僕はやっていこうと思っています」
健一さんにとって求めていた答えだったのか、それとも予想外の内容だったのかはわからないが、こんな唐突な難題にこんなふうに答えられる17歳がいるだろうか。そして、そう答えさせてしまう現在の世界情勢の現実というものを、痛いほど再認識させられるとともに、その様子を後方から見守り、愛おしそうに後ろ姿を見送るMotomさんの表情に、ひとつの幸せを見たようなあたたかさを感じた。
そう、楽しんだ方がいい。どこまででも自由に、どこまででも連れてってくれる、ADDICTを象徴するような「孤独に自由に」に導かれ、高揚感を誘うシゲさんのダイナミックなベースが弾む「私と自分」へ。健一さんは軽やかに踊り、観客は飛び跳ねながら腕を振り上げ、背後には大量の水泡が生きているかのようにうごめいて、この日いちばんのサイケさが加速する。
そして本編ラストは「無題」。会場中がとってもわかりやすく喜んでいる。ふと、目線をゆっくりと左右へ移動させ、客席の一人一人の顔を何かを確認するように目で追った後、「何の為に生きる」と口にした健一さんにドキッとしたのは私だけではないはず。
「5分ぐらいちょっと待ってて。早く出て来てっていう手拍子はしないで下さい(笑)」と、今度こそ急かされない一息を入れて戻って来たところで、健一さんがシゲさんにロックオン!
早く帰りたがっていることや、着ているグッズTシャツのこと、立ち位置的に見えない人たちがいるからと手招きをして、極めつけはFCサイトにシゲさんがライヴ前に投稿した「7月7日にミラクルを起こす」の「ミラクルって何?」(笑)。普段は寡黙に音を奏でるベースマン・シゲさんの何とも可愛らしい一面を見たところで、本日最後の一曲は「幸せな日々」。手拍子とともに客席が踊り出す。いつからか「無題」に近づく存在になったようなこの曲で、熱く長い代官山の一日が終わった。
今回の『Live-summer-』では実に多くの新しいバージョンが生まれ、そしてそのどれもが曲の再現というよりは、まるで今目の前でセッションが行われているような、そんなよりリアルを感じるステージとなった。だからこそ、演奏するたびに何かがまた変わっていたりする。それは、常に音にまみれ音を楽しむ“バンドADDICT”をこれまで以上に堪能できる、至福の時間だったに違いない。この日2公演ともに、演奏されたのは14曲、時間は2時間を超えていた。実は予定されていたタイムスケジュールよりもそれぞれ30分ほど長い。
「今日、七夕…天気いいから会えたってことでしょ?良かったね」締めの挨拶をした後、思い出したように二人が会えたのは皆さんのおかげ、と健一さんが笑った。でも、本当は「会いに来てくれてありがとう」そう言いたかったんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、次に織姫と彦星が会える時には、今の悲しみや苦しみから解放された地上の世界でありますように…Rioくんの頼もしい言葉を思い出して願いを込めた。
ADDICTは一足お先に12月に再会予定、季節の裏側でまた音に埋もれましょう!
◆Photographer : Keisuke Nagoshi
***** NIGHT◇SET LIST *****
1. 幻影(New ver.)
2. 旋律(New ver.)
3. 心の中の銃
4. 推察の最中で(with Rio)
5. ぬくもり求め
6. 特別な人(New ver.)
7. あの娘は言う
8. 今はなき世の中
9. 誰もが気付かない日の午後
10. 一人にしないで(with Rio)
11.孤独に自由に
12.私と自分
13.無題
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EN.1 幸せな日々
K子。/音楽ライター
神奈川・湘南育ち。音楽と旅行と食べ歩きが大好物な、旅するライター。愛情込めまくりのレビューやライヴレポを得意とし、ライヴシチュエーション(ライヴハウス、ホール、アリーナクラス、野外、フェス、海外)による魅え方の違いにやけに興味を示す、体感型邦楽ロック好き。