【LIVE REPORT】 『2024 ADDICT OF THE TRIP MINDS LIVE -WINTER-』竹芝BANK30◆2024.12.15
2024 ADDICT OF THE TRIP MINDS LIVE -WINTER-
2024.12.15 sun.
竹芝BANK30
Text.K子。

12月13日大阪・14日名古屋と周り、『2024 ADDICT OF THE TRIP MINDS LIVE -WINTER-』最後の地となる東京の会場は、記憶もまだ新しい昨年2月にFC限定イベント『ClubTripS vol.2』を開催した竹芝BANK30。同じ冬でもあの日とは違い、太陽が会場前に広がる水面をきらきらと輝かせて、ツアー最終日を祝福するような清々しさだ。【DAY】【NIGHT】公演ともに即ソールドアウトとなったこの日、【DAY】は名古屋と同じ、【NIGHT】は大阪の本編を逆再生にしたセットリストで行われた。まるで時が巻き戻るようでそうではない、なぜならわずか三日の間にも進化を続けているからだ。同じ曲目だからこそ、それがよくわかる。
**【DAY】**
15:00、定刻通りステージに姿を現した三人。正確に刻むMotomさんのドラムの上で、志門さんの艶感のあるギターが煌めき、そこに絡み付くようなシゲさんのベース。セットリスト上に「JAM」と記載されたこのオープニングでは、リアルな“バンド”というものが感じ取れる。

そこに低く立ち込めるベースの音色。拍手の中、健一さんが登場し、「孤独に自由に」の心地の良い気怠さのバックには、レオパードのような水滴の映像。大阪・名古屋では光と影、色彩を帯びた明と暗、シンプルさゆえのスポットが際立つ照明だったが、東京では映像やオイルアートによる演出が用意されていた。揺れる水面に大輪の赤い花びらが撒かれた後は、このアレンジの小気味の良さが前面に出た、健一さんのギターで始まる「心の中の銃(New ver.)」。サウンドに身を委ね、向かい合うギタリスト二人の熱い音に酔いしれる。

そして、Motomさんの右足が飛び跳ねる健一さんに合わせてカウント…いや違う、健一さんのジャンプ自体が「旋律」のリズムとぴったり一致している!そういうことか!? と思いながら、体と心の高揚感はもう有無を言わさず急上昇だ。間奏前のMotomさんの掛け声を合図にするかのように、冴え渡るベースがさらに会場の温度を上げる。そこから一気になだれ込み「幸せな日々」の厚く重いドラムが響きわたり、健一さんと志門さんが高く掲げた拳に客席が続く。肩をはだけ天を仰ぎ頭を振り乱し、激しさの鼓動が高く早く、この曲の持つ怒りを突き上げる。いつになったら平和ボケなんかじゃない、ほんとの幸せな日々が訪れるのか…必ず来るその日まで、この拳を握りしめて忘れずにいよう。続く「今はなき世の中」では、軽快なリズムに観客も軽やかに上下に頭を揺らす。《朝日が出るまで キスをしよう》と両中指から放たれた熱を受け取るかのように、頭上には拍手の波が広がっていた。

そんな盛り上がった場面に投下されたMCがまた…流石としか言いようのないトークセンス(笑)。新たな“健一語録”登録です!
「外はものすごくいい天気でいい風も吹いているのに、ここはカーテンを締め切って空気がよくない(笑)。みなさんの素敵な愛に溢れた二酸化炭素が充満しています(会場爆笑)。この二酸化炭素を地球環境のために、あのカーテンと窓を開けて換気をしましょう」(実際この後、会場のカーテンと大きな窓を開けて換気が行われた)
そして、バンド側の要望をもとに作られたという、この会場300杯限定のオリジナルドリンクの話になった時、「できればサービスしたいんですけど…」と言いかけた健一さんの後ろから、「サービスしちゃおう」というMotomさんの天の声が!まさかの「いいよ、じゃあツケといて。オリジナルドリンク、全部飲んでいい」。えっ、えーーーー!!!喜ぶ以前の驚きの歓声で場内がもう騒然(笑)!いやはや、ADDICT、演奏だけでなく男っぷりもすご過ぎる!
~ 休憩明けからラスト前までの曲は、夜公演の方でレポートしますね ~
そして、スクリーンとギターの音色が混ざり合った虹色の浮遊感に誘われ、最後に演奏されたのは「幻影」。輪郭をしっかりと形成しながら躍動するベースとドラムが心も躍らす。何気に、このバンドのリズム隊のスゴさとカッコよさは、この曲がいちばん感じられるのではないだろうか、ふとそう思った。そこに赤くフラッシュするライト、否応なしの盛り上がりで【DAY】パートは終了した。

**【NIGHT】**
約2時間のインターバルを挟んだ19:00、この回は途中から健一さんも参加して4人そろってのセッションでスタート。その流れで始まったのは、4公演の中で唯一バージョン違いの披露となった「輝ける亡者」だ。重心の低いこの骨太なロックサウンドからの、「推察の最中で」の導入のベースが実にナチュラルで、すでにセットリスト逆再生による発見を実感。その音に身をまかせて体を揺らしつつ、置き去りの感情とは裏腹に、繰り返す剥き出しの感情にひとしきり白熱した後は、「誰もが気付かない日の午後」で一気にクールダウン。青く深く落とした照明が心の中を映し出しているかのよう。シゲさんの指がベースを滑り、悲しい目をした健一さんのその手は、悔しさをぶつけるかのように弦を弾く。まるで「生きてくれ」そう言っているかのように…。そこから絶妙な間でMotomさんがリズムを刻み、健一さんがシゲさんを大きく指差し聴こえてきたのは、「特別な人」のあの悩まし気なフレーズ。血が滲んでいるような赤く流れ込むオイルがとても印象的で、求めながらも伴う痛みにどこか似ている、そんなことを思ってみたりした。



休憩明け、「じゃあちょっと、志門のギターソロを聴こうか」と二人が顔を見合わせて始まったのは、ちょうどバブルが終わり、湾岸戦争や世間の流れがあまりいい時期ではなくて、だけどどんなに悪い事が起きようと自分が今居る場所を大事にしたい、そんな想いで作られたと【DAY】公演にて紹介されていた「あの娘は言う」。志門さんの唸るギターを正面に浴びて徐々に高め、足で大きくリズムを取りながら跳ねる健一さんに、観ている側も頷くようにギアを上げ、会場のいちばん後ろの人までも楽しそうに飛び跳ねている。

そういえば、このツアーで志門さんのソロ始まりだったのはこの東京の【NIGHT】公演だけだった。ただ曲順を逆にしただけではない、所々にそれに合わせて効果的な手が加えられている。そんなことも含め、健一さんが休憩前に話していた言葉が頭に浮かぶ。
「皆さんの気持ちも自分たちの気持ちも変わるし、昼間やった曲を今やっても同じふうにはならないから、それが生のライヴの面白いところだと思う」
そして、それをいちばん、誰もがこれでもかというほど実感させられたのは、「何も知らない」だったのではないだろうか。志門さんと二人だけでステージに現れた健一さんの手には、ウクライナーカラーのADDICTステッカーが貼られたスマートフォン。囁くように言葉を紡ぎながら、時に“それ”を守るように胸に抱く。目をつむり、歌声と全身が小刻みに揺れている、その脳裏には今何が映っているのだろう。沸々と心の底深くからこぼれ落ちる《No more war》が、突然、抑えきれなくなった感情が一気に噴き出すかのように、爆発して溢れ出て、止められなくなった…。人が出せる力の限りを振り絞って、健一さんの全部で叫んでも叫んでも叫んでも、届かない悲しさ。歌が、健一さんの怒りと表現すべてが、胸を刺す。


ただただ圧倒されて立ち尽くす客席の中には、大切なウクライナからの仲間達の姿があった。魂の叫びはきっと、この同じ空間に居たひとり残らずすべての人たちの魂に共鳴したに違いない。そして、前曲の痛みをそっと癒すかのような「偽り感じて」を聴きながら、そうか…この曲はあるべき位置にあるのかもしれない、あってくれて良かった、と救われた気持ちになったのは私だけだろうか。名古屋同様《ラララ…》を客席が歌い、曲の終わりに《この腕の中で…》と健一さんが右腕を大きく広げたのを見て、切に願わずにはいられなかった。いつか必ず、あの叫びは届く。必ず。だからどうかどうか、温かい腕の中で優しく眠りについてほしい。そこからの「ぬくもり求め」はもう、正直観ている側も感情が大渋滞で、ただ、内面に訴えかけてくるそれぞれの演奏と、膝を着き一心不乱に頭を振りまくる姿を観て、改めて実感した。このドラム、このベース、このギターに、このフロントマンでないと、誰ひとり代わりの利かない最高の4人であることを。
最後のMCは思わぬところから、健一さんがいつか旅立つ時の話に。
「人っていなくなっちゃうじゃん。今のうちに言っときますけど、いつか死ぬ時が来ると思うんだけど、その時は悲しまないでください。たぶん、いい感じで逝っちゃうと思うんで(笑)。ということで、2024年、皆様よいお年を過ごしてください」
全然「ということで」じゃないんですけど(苦笑)。前後から要約すると、違う世界でまた会うまではきっとまだ時間はあるはずなので、お互い人生悔いのないように、まずは春に開催予定のFC“AddicTripS”限定イベントをお楽しみに、ということでした。そして「また会いましょう、会えたら嬉しいです。じゃあ最後はこの曲」と、ギターのイントロが響きわたると、フロア中から喜びの歓声が。ラストナンバーは「無題」。背後にはメンバーの姿が映し出され、ステージの上も下も、すべてを出し切るような熱さで【NIGHT】公演が終わった。

より想いが凝縮された最終日の東京公演を経て、3日間という短いようで実に濃厚な、ADDICT初の東名阪ツアーが幕を閉じた。シゲさんの言う通り、“ADDICTの年”が終わって、“ADDICTの年”がまた始まった。Are you ready?

***** DAY◇SET LIST *****
JAM
1. 孤独に自由に
2. 心の中の銃(New ver.)
3. 旋律
4. 幸せな日々
5. 今はなき世の中
6. あの娘は言う
7. 特別な人
8. 誰もが気付かない日の午後
9. 推察の最中で
10.輝ける亡者
11.何も知らない(Shimon & Kenichi ver.)
12.偽り感じて(Shimon & Kenichi ver.)
13.ぬくもり求め
14.幻影
***** NIGHT◇SET LIST *****
JAM
1. 輝ける亡者(New ver.)
2. 推察の最中で
3. 誰もが気付かない日の午後
4. 特別な人
5. あの娘は言う
6. 今はなき世の中
7. 幸せな日々
8. 旋律
9. 心の中の銃(New ver.)
10.孤独に自由に
11.何も知らない(Shimon & Kenichi ver.)
12.偽り感じて(Shimon & Kenichi ver.)
13.ぬくもり求め
14.無題

◆Photographer : Keisuke Nagoshi
K子。/音楽ライター
神奈川・湘南育ち。音楽と旅行と食べ歩きが大好物な、旅するライター。愛情込めまくりのレビューやライヴレポを得意とし、ライヴシチュエーション(ライヴハウス、ホール、アリーナクラス、野外、フェス、海外)による魅え方の違いにやけに興味を示す、体感型邦楽ロック好き。