【LIVE REPORT】 2023.02.19 青山BAROOM / 第１回 ClubTripS
ファンクラブ会員限定イベント『ClubTripS』
2023.2.19 sun.
song & supper BAROOM
Text.K子。
「ライヴができて、爆音でロックが流れていて皆が踊りまくっているフロアと、まったり酒を飲みながら話せるチルアウトルーム。結成当時、寺田倉庫でやっていた『CLUB ADDICT』の昼間ver.みたいな空間をイメージしたんだよね。いい音楽が流れて、いい時間を過ごせたらいいんじゃないかなって。」
今回、こういったCLUB PARTY形式での開催に至った経緯を、健一はこう語っていた。この両フロアを行き来するのはファンだけではない、メンバーもだ。参加する人たちにとっては、こんなに“いい時間”はないだろう。他にはない、プライスレスな時間だ。
2月だというのに最高気温が18℃だという、とても穏やかで平和な日曜の昼。渋谷の喧騒からも少しだけ離れた南青山のBAROOMにて、今年2月に発足したばかりのADDICT OF THE TRIP MINDS公認ファンクラブ「AddicTripS」初の、会員限定イベント『ClubTripS』が開催された。
3パートに分かれたタイムスケジュールは、1時間のライヴを挟んで、前後に過去のライヴ映像やDJを堪能できる時間を配置。このDJタイムはフリータイムとなるため、Restaurant&Barエリアでお酒や軽食を楽しんだり、会員同士が交流することができるのだが、この時間はバンドのメンバーも同時にフリータイムとなる。つまり、ここが会員とメンバーがフラットに同じ空間に居合わせる可能性がある、夢の時間ということだ。たっぷり2時間半、ここにもファンとアーティストの境界線を好まない健一らしさが表われている。
12時30分、幸運にもこのPARTYのチケットを手にした100名が会場内へ入場し始めた頃、ライヴ会場となるホールでは、DJとスクリーンに懐かしい映像がスタート。荒々しささえ感じるような勢いと若さ、そこに映り込む観客からもあの当時の迸るものを感じる。1時間を過ぎ、やがて映像は2021年の活動再開後のライヴに突入。こうして続けて観ると、人間もバンドもいかに年月を経て円熟するものなのかと実感せずにはいられない。
Restaurant&Barエリアでは時折どよめきが起き、笑顔が溢れる。
14時が近づき、DJブースに立つMotmがミックスしたのは、昨年CLUB CITTAでのライヴの際「NO MORE WAR！」と熱く悲しげな叫びが胸に迫った「何も知らない」。正直これを聴くまで、彼らの音楽の踊れるRemixバージョンというものがピンとこなかったのだが、何ならRemixアルバムを作ってもいいのではないか、そんなことを思ったほどカッコいい。
曲の途中でメンバーがそれぞれの立ち位置にスタンバイ、次に生音で繋いだのは、心地よく体の揺れを誘う志門のギターリフで始まる新曲「ぬくもり求めて」。初めての披露となったこの曲、《ここまでどうして来たの 歩いて一人で来たの 誰かと一緒に来たの》と、ライヴの始まりにまるでこのイベントに参加した人たちへ問いかけるような言葉が耳に止まる。
「シゲさんいきましょう」と始まった「推察の最中で」。会場にいた人であれば、きっと感じたのではないかと思うが、今回のセットリストでは他にも「特別な人」「幻影」など、ベースで始まる曲がいくつかあったが、シゲの弾く音があまりにも体に響いて驚いた。今回、ステージとなるのはまるで小劇場のような円形ホールの中央部分で、通常の演者が高い位置で聴き手が下という段差の関係が逆転。床がそのままステージとなり、周りをぐるっと取り囲むように段々に連なった客席が並んでいる。その効果もあるのか、これまでは空間で感じていた“音”が足裏から体の中に伝わってくる、それをいちばん感じられたのがズンズンと奥底から響くベースの音色だった。気持ちいい、生にもほどがある贅沢な体感だ。
贅沢といえばもうひとつ。5曲演奏が終わったところで「空気薄くない？」と健一から5分間の休憩が提案。一度ホールから出て、お酒を飲んだりして戻って来ようということだったのだが、その間のBGMを志門がギターで奏でることに。生演奏の流れる中、続々とステージを横切りバーエリアへ向かう人々…なんて贅沢な、そして生配信中でもあるというのに何と言う自由さ、これがAOTMだなと再確認する場面でもあった。また、「Em(イーマイナー)の暗い感じで」というリクエストに応える志門に、途中からMotmのドラムが合流。あまりの心地よさに、もはやこのままグラスを片手にずっと聴いていたくなってしまったほどである。途切れることなく、そのまま流れるようにライヴが再開したところも、特筆すべきところだろう。
次回のライヴが4月13日SHIBUYA PLEASURE PLEASUREに決まったという告知とメンバー紹介を挟み、本編ラストとなる「幸せな日々」へ。この日のライヴでは、健一がギターを持たずに歌に専念している曲が数曲あったのだが、そんな時の彼はより一層アクティヴで、ステージ中を所狭しと歩き回りながら時には客席の階段にまで上がり、体全体で感情を熱く表現していたのが印象的だった。もちろんステージ上にはマイクスタンドが設置されているわけだが、もはや正面というのはあってないようなものだ。そして《平和ボケは幸せな日々 幸せな日々は平和な日々》という言葉に、世界と自分の現状を対比させて申し訳ない気持ちになった。当日会場内には、ウクライナ支援のため、今後開催予定のチャリティーオクションにて出品される、AOTMのロゴやデザインが施された一点もののハンドメイドの展示が並んでおり、制作したメンバーの家族であるウクライナ出身の彼女は、来場者に声をかけられとても明るく綺麗に笑っていた。悲しみが世界に訪れてから一年が経過。彼女の笑顔が、きっともっと輝く笑顔が、見られるその日まで願いを込めて祈りを込めて…LOVE&HOPE。
配信は本編のみとなったが、再度ステージに戻り参加した100人だけに向けて「偽り感じて」をプレゼント。今回ファンクラブの第一回目となるイベントということで「ファンクラブなんていらないよと思ってたけど、有難いよね」という本音も聞けたところでライヴパートは終了した。
最後のフリータイムでは、メンバーが物販に登場したり、ウクライナへの募金箱に心を寄せてくれる人達への感謝を示す場面なども見られ、健一の言う“いい時間”を過ごし、忘れられない一日になったのではないだろうか。
終演後、メンバーそれぞれにライヴの感想を聞いてみたところ、すぐ近くや背後にお客さんがいるというこのシチュエーションでの演奏を、全員が「またやりたい」とのこと。今回の会場やステージの造りを思うと、きっと他にも様々なタイプの会場が存在していて、そこでAOTMが演奏していることを想像すると…もうワクワクしかない。これまでに何度となくライヴは観てきたが、次はどんなことをやってくれるのか、そのときめきにも似た感覚は、彼らのライヴを一度でも体験した者だけが受け取れる感情なのだろう。これからのADDICT OF THE TRIP MINDSが益々楽しみで仕方なくなった、白昼夢のような平和な冬の一日だった。
***** SET LIST *****
1. 何も知らない
2. ぬくもり求めて
3. 推察の最中で
4. 今はなき世の中
5. 特別な人
6. 幻影
7. 孤独に自由に
8. 幸せな日々
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Enc. 偽り感じて
K子。／音楽ライター
神奈川・湘南育ち。音楽と旅行と食べ歩きが大好物な、旅するライター。愛情込めまくりのレビューやライヴレポを得意とし、ライヴシチュエーション（ライヴハウス、ホール、アリーナクラス、野外、フェス、海外）による魅え方の違いにやけに興味を示す、体感型邦楽ロック好き。